長崎県済生会は2024年4月、「済生会こども鳴滝塾」をスタートしました。「塾に行っていないけど、もっと勉強したい」「将来、病院で働きたい」――対象となるのは、そんな思いを持つ就学援助費受給世帯の子どもたち。連携する長崎大学附属図書館経済学部分館を会場に、毎週土曜日午後の3時間、近隣の三つの中学校から集まった生徒6人が共に学んでいます(25年2月現在)。
塾の名称は、日本に近代西洋医学を教えたシーボルトが江戸時代後期(1824年)に長崎に設けた診療所兼私塾「鳴滝塾」にちなむ
開塾のきっかけとなったのは、無料低額診療事業推進の一環で行政・関係機関への訪問活動をしていた際に、経済的な理由で受診を避けてしまう就学援助費受給世帯の子どもの存在を知ったこと。このとき、医療費減免については支援につなげることができましたが、こうした子どもたちは学びの場や機会を得るチャンスが少ない状況にもあります。
「済生会として、長崎病院として何かできることはないか」という職員の思いが、医療や福祉、経済的支援の枠組みにとどまらない社会支援として「教育」に取り組む本プロジェクトを立ち上げる原動力となりました。
プロジェクトリーダーを務める長崎病院地域医療連携センター長・松崎優美さん(連携士)
23年5月、支部理事であり教育面に造詣が深い長崎大学附属図書館長・浜田久之教授を室長として準備室を立ち上げ、プロジェクトを開始。浜田教授は非常勤医師として長崎病院で無料低額診療の対象となる患者さん家族と接する中で、〝貧困の連鎖〟を断ち切るための「教育」の必要性を感じていたといいます。
準備室メンバーは支部長、支部事務局長、長崎病院経営企画室長、同院地域医療連携センター長など7人。長崎病院中心に長崎県済生会が一丸となって取り組む体制が整い、「院内で医療ソーシャルワーカー(MSW)だけでなく事務方も含め、長崎県済生会全体での協力・連携が得られたことが心強かった」とプロジェクトリーダーを務める長崎病院地域医療連携センター長・松崎優美さん(連携士)は話します。
約1年の準備期間を経て開塾した済生会こども鳴滝塾は、塾生1人に大学生ボランティアが1人つくマンツーマン方式の補習塾です。子どもたちがそれぞれ取り組みたい教科や苦手とするものを持ち寄り、大学生ボランティアが個々に合わせて学習をサポート。塾生たちは年の近い〝お兄さん・お姉さん〟とすぐに打ち解け、分からないことを気軽に聞ける・家以外の場所で集中して勉強できる環境になっているようです。
また、大学生たちにとっても地域貢献の一端を担うことができ、教えることを通して逆に学ぶことも多いとのこと。元小学校教員の現場責任者は俯瞰的に塾全体の学習環境を整えています。塾生の子どもと、指導するボランティア学生の間を円滑につなぐ役目も担い、「毎回、塾生に『分かった!』と実感を持ってもらえることが、学力向上にもつながる」と話しています。
夏休み期間には追加の開塾日を設け、学習時間の前半は「医療者講話」を開催。実際に現場で働く医療従事者の話を聞いた後の塾生たちは、普段よりも一層真剣なまなざしで机に
向かっているようでした。
開塾してからもうすぐ1年。塾生たちには学習意欲の向上や、塾で学んだ科目に対する自信も見られ、学習成果が出始めています。
25年度は対象校区を拡大して生徒を募集しています。今後も補習塾としての基本スタイルを持ちつつ、塾生からの「こういうことがやってみたい」という声があれば、柔軟に取り入れていくなど運営方法を模索中です。
夏休み期間には学習の前に「医療者講話」を長崎病院内で実施