大分県済生会・日田病院は1990年10月、「地域の中核を担う病院を」と望む地域住民の声に応え、二次医療圏の中で唯一、公的病院がなかった西部医療圏に開院しました。開院以来、二次救急への対応をはじめ、へき地医療拠点病院、災害拠点病院、地域医療支援病院、地域がん診療連携拠点病院、第二種感染症指定医療機関など、地域に必要な医療機能を一手に引き受け、幅広い役割を担いながら地域とともに歩んできました。
「どのように地域全体を巻き込んでやっていくか」を模索する林田良三院長。行政機関、商工会議所などにも積極的に話をしにいく
開院の経緯からも、同院は地域との関わりを大事にしています。例えば、91年5月から続けている、山間地で医師のいない地区を回る巡回診療。病院へのアクセスに苦労している高齢者のため、町が開く健康教室などとも連携して診療を行なっています。「医療の枠を超えて、まちづくりに貢献することは社会福祉法人としての本分」と林田良三院長は強調します。へき地の住民の声を直接聞くために、住民自治組織が主催する茶話会に林田院長や同院MSW(連携士)が参加し、地域住民と継続的に交流する機会をつくってきました。
地域に出向いての活動はニーズを掘り起こすことにもなり、訪問看護ステーションの立ち上げ、外国人をはじめ障害者や高齢者などすべての人に分かりやすい「やさしい日本語」の研修会の開催、職員から不要な衣類や生活用品を集めて希望する人に無償で譲る「リユース事業」の開始などにつながりました。こうした活動は、25年3月現在7人在籍する連携士が中心となり、大分県済生会全体で企画・運営しています。
また、医療的ケア児の緊急時避難についての協議(23年8月)、子どもの貧困対策支援を考える「カタローエ大分in日田」の市や教育委員会との共催(24年2月)など、見えにくい課題に光を当て、さまざまな分野の関係者・関係機関と連携して地域全体で取り組んでいくためのしくみづくりにも関わっています。
大学の学園祭に支援対象者とともに参加したり、講演会で地域生活定着支援などについて説明したりと地域との交流・情報発信に尽力。新たに開始したリユース事業も好評
大分県済生会が行なう取り組みの柱の一つとして、矯正施設退所者等への支援が挙げられます。済生会の生活困窮者支援事業「なでしこプラン」が始まった2010年に、済生会で最初に地域生活定着促進事業を受託し、大分県地域生活定着支援センターの業務を開始。高齢・障害により刑務所出所後の社会生活が困難な人を対象に福祉サービス等につなげる「出口支援」をはじめ、入所前から関わり始める「入口支援」にも法制化前から取り組んできました。
開始当初は何をすればいいのかも分からず、まさに手探り状態だったといいます。「どうしたら支援の必要な人たちがアクセスできるようになるか」「具体的にどういうニーズがあるのか」を考えながら、自分たちにできることはないかと聞いて回りました。その積み重ねで、さまざまな関係機関と密なつながりが構築され、他にはない支援のカタチができていきました。
10年に日田病院が始めた更生保護施設「あけぼの寮」への巡回診療班の派遣・定期健診事業は、15年には同院相談員が常駐職員として施設に出向し、よりきめ細やかな福祉的支援を実施するカタチへと展開。これは更生保護施設と済生会の双方にとって全国唯一の取り組みです。
25年3月現在、大分県地域生活定着支援センターでは福祉の専門資格を持つ相談員を7人(連携士4人)そろえ、関係機関とも密接に連携しながら、支援対象者一人ひとりの状況に寄り添った相談業務を行なっています。
同センターの支援対象者の一人であるAさん(男性・81歳)は現在大分市内に一人暮らし。刑務所入所中は、出所後の行き場がないことに不安と孤独を感じていたといいます。「出所3カ月前にセンターの人が面会に来てくれて。住民票がない状態から、出所後の生活上のさまざまな手続きを支援してもらい、本当にありがたかった。皆さんに迷惑をかけたくないし、再犯はしないと心に決めています」とAさんは笑顔で感謝の言葉を繰り返しました。
連携士としても活動する御手洗和也センター長は「〝誰一人取り残さない〟社会を実現するためには、一人ひとりに寄り添った丁寧な支援を行なうとともに、社会の側にも理解を促していく必要がある」と話します。同センター職員は地元の大学の学園祭に支援対象者とともに出店したり、定期的にセミナーや講演会・研修会などで「刑務所出所者への支援」や「地域生活定着支援」などについて説明したりするなど、地域との交流・情報発信にも力を入れ、支援に対する理解の輪を広げています。
大分県地域生活定着支援センター所属の連携士は御手洗和也センター長(中央)を含め4人。連携士の視点を生かして関係機関とのつながりを構築
個別支援だけで終わらせず、地域社会全体を良くするために何ができるかを考え行動していく――大分県済生会の取り組みには、連携士が活動で大切にしている視点が息づいています。